NHK「朝の随想」(NHK新潟放送局)

昭和40年から放送されているNHK新潟放送局制作「朝の随想」の原稿をご紹介いたします。平成18年4月〜9月までの期間、毎週月曜日に放送いただいた内容です。

放送第25回 迷わず進め

8年前のことです、「近代化したら、城下町の価値を失い、商店街は衰退する。あなたがそれを食い止めなさい」といわれたことにまちづくりの端を発したのですが、その晩、事の重大さに、悩み、迷い、朝まで一睡もできなかったのです。夜が明け、最後には「町のために」と決意した私でしたが、決意できたのは、実はその時父の姿を思い出したからでした。父は30年前大型店進出という商店街の危機をいち早く知り、何とかしなければと商店街の一大改革を唱えました。当時あまりにも奇抜な発想だったため、受け入れられませんでしたが、批判されながらも、最後まで全力を尽くしたのでした。その時の父の姿には、子供心に心打たれるものがありました。その姿が頭をよぎったとき、仮に理解されずたとえ村八分になろうが、殴られようが、町中の人に嫌われようが、私自身はどうなっても良い、町のために勇気を持って立ち上がらなければと決心できたのです。

ある方に「振り返って二人いれば、迷わず進め」と励まされたことがありました。私がまちづくりの出発点に立ったこの時、振り返っても、そこには誰もいませんでした。あったのは不安と孤独の二つだけ。組織はもちろん仲間もいない真っ暗闇の中でのスタートだったのです。ただ唯一、父であり、母そして女房が応援してくれたことが幸せなことでした。もし私に家族の支えがなかったら、途中で投げ出していたかもしれません。「二人いれば迷わず進め」という言葉は、物事を始めるのに、組織がなくても仮に一人でも二人でも仲間がいれば十分なのだということを言っているのです。町のため、みんなの幸せを願う気持で行動すれば、やがて支持者が現れ、応援者が増えていくからです。

「でも、うちの町には立ち上がる人がいない。誰か頑張る人が現れないだろうか」と言う声をよく聞きます。しかしその「誰か」は現れてはくれないのです。何とかしなければと思うその本人自らが動かない限り、「誰か」「誰か」と待っていても、期待するその「誰か」は一生待っても現れてくれないのです。しかしその「誰か」とは特別な人ではなく、町のため、人の幸せを願って、信念を持って行動する人であれば、誰にでもなれるものなのです。学問や能力、もしくは社会的地位が物事を動かすものではなく、人の強い思いこそが、物事を動かす最強の原動力であるからです。この思いが動き出したときにこそ、人には恐るべき力が生まれます。そして人のためを思って行動した時に、それまで超えることのできなかった自分の弱さをも打ち破る、未知なる力が生まれるのです。

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