NHK「朝の随想」(NHK新潟放送局)

昭和40年から放送されているNHK新潟放送局制作「朝の随想」の原稿をご紹介いたします。平成18年4月〜9月までの期間、毎週月曜日に放送いただいた内容です。

放送第19回 物事達成のために

これまで「町屋の公開」をはじめ色々なまちづくりを行い、今もまさに実践の真っ最中なのですが、この8年間で取り組んできた経験の中で、非常に大切だと思ったことを話したいと思います。それは何かやろうとする時の心構えです。「できる範囲で頑張ろう」ではいけないのです。必ず成し遂げる、絶対成功させるのだ、といった確固たる意思が必要なのです。「できる範囲で」とはあたかも良い事のように聞こえるのですが、実際は心に逃げと甘えが生まれ、持っている力の半分も出さないものなのです。逆にたとえ初めて行うことであっても、ある一定のレベルまでは必ず成功させる、と言う気持こそ肝心なのです。

人形さま巡りの参加店を捜し歩こうとした時、『参加店は5〜6軒でもいい、60軒集めようなんて肩肘張るな、できる範囲で頑張ればいいじゃないか』と言われた事もありました。しかしもし5〜6軒で始めたら、きっとマスコミの話題にもならず、当然人も来なくて、惨憺たる結果になっていたと思います。「来年、頑張ろうよ」と慰めてくれても、果たして翌年、メンバーが集まってくれたでしょうか。成果の上がらないことからは人は離れるもので、最初に失敗すると二年目はないのです。人形さま巡りは大変でも60軒の町屋の参加店を探し、あたかも町中を美術館にしたからこそ、話題を呼び大成功したのです。成功すると、それまで反対していた人も仲間になってくれ、そして何よりもそれに携わってきたメンバーがやっていることに誇りに感じ、一層頑張ろうとするのです。初めての取り組みだからこそ、できる範囲ではなく、必死になって頑張って、一定のレベルまで成功させることが、肝心なのです。

またまちづくりとは、例えいいことをやろうとしてもなかなか理解されないことが多いものです。意識に違いがあるため、自分が描いている世界を、他の人が同じように描けないからなのです。人に理解されないことを理解してもらうには、どうすればいいか。それは「分からない人には、実際やってみせ、目に見える形で示す」ということです。「町屋が村上の大切な財産だ」といっても分かってもらえず、「この小路を黒塀にしたらきっと素晴らしくなる」といっても理解されないこともありました。しかし現実に町屋を巡る人で町が賑わい、それを目にして初めて町屋の価値を理解する人が増え、また市民の力で270mもの黒塀ができ、実際にできた黒塀が風情や情緒を漂わすことが分かってもらえ賛同者も増えたのです。

今日、「できる範囲」でとか「無理なく」とかよく言われますが、その言葉に溺れて人間が弱くなっているようにも思えます。逆に無理だと思うようなことでも、全力でぶつかる時に、苦しい中にも喜びと感動があり、自分自身に眠っていた真の力が沸き出でて、物事が達成されるのではないでしょうか。

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