NHK「朝の随想」(NHK新潟放送局)

昭和40年から放送されているNHK新潟放送局制作「朝の随想」の原稿をご紹介いたします。平成18年4月〜9月までの期間、毎週月曜日に放送いただいた内容です。

放送第13回古い民家でスローライフ

黒塀プロジェクトにより村上の安善小路には市民による黒塀が270mできあがり、10月には「竹灯籠まつり」を行っているのですが、私がこの小路で活動を始めたきっかけをお話しします。

実はこの小路には重要な景観を作っている古い民家がありました。戦前の建物ですが、当時は「御殿」が建つといわれたほどの立派な建物だったのです。一般的な町屋とは違う造りで、村上に唯一残る貴重かつ美しい建物でした。戦後は市内の銀行の支店長社宅として使われていました。ところが私のところに、この建物が売りに出されていて、おそらく更地になってしまうという話が舞い込んできたのです。

この小路は文化財のお寺をはじめ、老舗の料亭、時代を感じる石垣の坂道、江戸のお寺の山門などがあり、城下町の風情を残す重要な地区です。この建物はこの小路の角地に建つ正に要の建物でした。もし取り壊されてしまっては、村上の大切な魅力を失うことになります。「この小路からこの建物をなくしてはいけない、何とか残さなければ」という気持で、保存運動を起そうと仲間に相談したところなんと、「吉川、おまえが買って住め」と言われてしまいました。「冗談じゃない、簡単に買えたら苦労はしない」と思ったものの、一大決心をし、結局この建物を買い取って住むことになったのです。

ところがこの建物の中に始めて入ったときの印象は、寂れた感じで、雨漏りもしており、印象のいいものではありませんでした。しかし古い建物は活かし方によっては見違えるほど魅力的になるのです。古い町屋に対してマイナスのイメージを持つ住人も多い中、その意識を変えるためにもと思い、様々な建物を見学し勉強を重ね、思い切ってこの建物の中を改装したのです。内装は伝統的な囲炉裏や床の間などがある一方、ヨーロッパのアンティークな照明や椅子、テーブルなどを置き、ガラス戸はレトロに変え、明治か大正の浪漫を感じさせる雰囲気に仕立てました。この建物に「浪漫亭」と名前をつけ、4年前から住でいるのですが、同時に村上の新しいスポットとして「人形さま巡り」と「屏風まつり」にはこの内部を公開し、「竹灯籠まつり」の演奏の会場としても使っています。

この「浪漫亭」に住んでから、古い家では古い家にふさわしい生活をしようと、あえて夏はうちわと扇風機、蚊取り線香を愛用し、夜は蚊屋を吊って寝る生活を始めました。囲炉裏も普段から使い、冬は豆炭あんかで寝ています。私は女房共々いわゆるスローライフを楽しんでいたつもりだったのですが、そんなある冬の日、いつの間にか女房が最新の電気毛布を購入し使っているではありませんか。そしてその夏には女房にとうとうエアコンまで取り付けられてしまい、女房は私のスローライフに反旗を翻したのでした。2年前に子供が生まれてからは女房の家庭内権力が増大し、私がこの「浪漫亭」で描いたスローライフは存亡の危機に瀕しています。

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